小説家【な行】

【1冊目】西尾維新『悲鳴伝』のおすすめ&感想

enkzm

※記事内に商品プロモーションを含む場合があります。

小説の感想記事は別のブログでも書いてきました。

しかしこれまで書いた記事はSEO(ネット検索で上位表示を目指すこと)を意識するあまり、素の自分で書けてなかったよなぁと思うわけです。

世の中の素晴らしい小説を純粋に楽しみたい。
それをブログ読者のみなさまにおすすめしたい。
それから自分でも小説を書くから、ブログを運営する過程で勉強もしたい。

そんな想いで始まったのが当ブログ『charmos(カーモス)』です。

前置きが長くなっているけど、検索順位重視の記事だとこういう雑記もしにくいものだし、さっそくも新鮮ですね。

小説の感想記事には番号を振っていくつもりなので、日々の出来事や考えも時系列で並べていけそう。

もちろん自己満の記事にするつもりは微塵もないので、読んでくれる皆さんが楽しんでくれたり、次に読む小説の参考にしてもらえるよう精進します!

僕という人間が書くことに意義のある記事にしていきたいところです。

さて、ようやくというか。
記念すべき1冊目は西尾維新先生の『悲鳴伝』です。

これ、もともと記事にする予定はなく好きな作家さんだからという理由で読み始めていた1冊になります。
(好きな作家さんと言いつつ、あまりの分厚さに気圧されてこれまで読んでいなかったのですが……。文庫版を購入したところ全741ページでした)

『悲鳴伝』の文庫本。この分厚さ。

ゆるく始まった感もつよいですがこれくらいのテンションで更新していきますね。

西尾維新先生の『悲鳴伝』
おすすめですよー。

「おすすめ&感想記事」の読み方

まずは記事の読み方からです。
これ毎回載せるので、「くどいよ!」と思う人は読み飛ばしてくださいね。

最初に独断と偏見で、読了した作品への評点を発表します。
プロの先生方の作品を評価するという行為に抵抗はかなりありますが、この形が一番わかりやすいんじゃないかなぁと思っています。

以下の感じです。

  • 各項目10段階で採点。(特に優れていたら10点以上もつけますが)
  • 評価項目は随時変わる、かも。
  • 記事に書くのは平均7点以上になった小説のみなので、このブログで紹介しているのは僕がとくに面白いと感じた作品ということになります。
  • 小説への評価(感想)は人生を通して変化していくものだから、再読した場合には第2弾以降の評点も追記します。(以前の評点もそのまま残しておきます)

そして評点の後からが本題。
ネタバレ度合いで、3段階に分けて小説のおすすめ&感想記事を書いていきます。

ネタバレLevel①
ネタバレ少なめ。

単行本裏表紙のあらすじ(またはネット販売ページ上のあらすじ)を引用せていただき、それに対する僕の抽象的な感想をお伝えします。

必要最低限のネタバレのみで読み始めたい人はここまで。

ネタバレLevel②
ちょっとだけネタバレあり。

物語の核心には触れませんが、どんなストーリーなのかや、読むとどんな感情になる小説なのかといった僕なりの感想を書いていきます。

自分に合った小説なのかを吟味して読み始めたい人はここまで。

ネタバレLevel③
ネタバレあり。

読了済みの人に向けた感想です。
みなさんと感想を共有できたら嬉しいです!

【独断と偏見】『悲鳴伝』の評点

『悲鳴伝』を独断と偏見で評点しました。

ストーリー
8
いろいろな出来事が頻繁に起こり、良くも悪くも予測できないが、最低限の一貫性はある。
読み始めたら止められない魅力あり。
キャラ
12
西尾維新作品らしい尖ったキャラばかり。個性的なキャラが好きな人にはたまらないはず。
没入感
8
独特な世界観や設定ながら、妙なリアリティがある。
主人公に共感できるかがキモか。
エモ度
(感情的)
10
ぶっとんだ考え方・感性のキャラが登場したり、残虐とも言えるシーンがあったりする。
主人公の特性に少しでも共感できる人はとりわけ感情的に楽しめそう。
読みやすさ
9
西尾維新作品の魅力を残しつつ、比較的万人受けしやすい文体。ページ数は多いが、のめり込んで読める。
合計点:47
平均点:9.4
万人受けしないかもだけど、自信を持っておすすめしたい1冊。
ストーリーよりは、キャラや世界観、そして文字を読むことを楽しみたい人に向いていそう。

もっと点数高いかと思ったけど、1冊目だしまだよくわかりません。
これが評点の基準になるのも2冊目以降きついかも。
初回の評点(2023年3月)

ネタバレLevel①『悲鳴伝』のおすすめ&感想

人類の三分の一が、その日、絶命した。老若男女区別なく、ランダムに。後に『大いなる悲鳴』と呼ばれることになる、地球の悲鳴によって。幸運にも生き残った少年。空々空そらからくうには、感情がなかった。彼は、ある少女との邂逅を機に、地球と戦うヒーローになることを強要され——。壮大なる英雄譚〈伝説シリーズ〉第一巻。

『悲鳴伝』西尾維新(講談社)文庫版の裏表紙より

『大いなる悲鳴』。
地球の悲鳴によって人口が三分の一まで減ってしまった現代が舞台です。

突飛とも言える設定に見えますが、この世界観ならではの生活感に妙なリアリティがあり、まず一つ魅力と言えます。

人類が三分の一も亡くなっているのに、生き残りの多くはそれを過去の出来事として今を生きている。
単純に考えて家族や友人も含めて周囲の人間が三分の一になっているわけですが、それでも世界が続いていることがなんだか不思議だし、自分ならどう感じるだろうと考えさせらます。

そんな世界に生き残った少年・空々空そらからくうが主人公。(西尾維新先生らしいネーミングですね)

くうには”感情がない”とのこと。

そう聞くと無表情で淡々と話すキャラを想像しそうですが……。

くうはひと味違います。
彼特有の”感情のなさ”が、この物語の大きなポイントとなっていきます。意味深ですね。

”感情のない少年”が、どのようにして地球を相手取ってヒーローになるのか……。
ストーリーは先が読めず、一度読み始めたら止められないこと請け合いです。

それと。これは西尾維新先生の作品に共通することですが、登場するキャラは誰も彼も尖った人物ばかりで、これまた魅力的。

——この小説のジャンルは?

そう問われるととっさに迷ってしまうような新感覚の作品と感じました。
(文庫本の帯では「SF×バトル×英雄譚」と謳われていますね)

ページ数が多く、西尾維新先生の魅力である「言葉遊びの文体」も好みが分かれるところなので万人におすすめはできないものの、ハマる人にはは究極に面白い小説です!

ネタバレLevel②『悲鳴伝』のおすすめ&感想

主人公・空々空そらからくうの性格というか在り方が作品の要と言っても過言ではない!
……はずです。

先ほど空には”感情がない”と紹介しましたが、この感情の無さが独特なんですよね。

どうお伝えしたらと悩むところですが——。

自分に感情がないことに自覚的で、それを恥じているキャラです。

例えば『悲鳴伝』の世界では人類の三分の一が亡くなっているわけですが、これに対し「感情のないキャラ」はどんな反応をするでしょうか?

多くの人は、こう想像するのかなーと思います。
「どれだけ人が亡くなっていようと、動じることなく淡々と無表情で過ごすキャラ」。

ところがくうは、ちゃんと動揺します。
動揺して、同情して、悲しみます。

いや、それは実に感情に溢れたキャラなのでは……と思われてしまいそうですね。
しかし、空の内心は実は水面のように穏やかです。というか干からびているとさえ言えます。

本心では一切動じていません。
代わりに、その冷静な思考でもって「今はどう振る舞うのが普通なのだろう」と考え「普通の反応を演じる」ことをします。

これって大なり小なり多くの人がしてることだと思うのですが、くうは振り切っています。
文字通り、何があっても動じません。……たとえ身近な人が目の前で殺されたとしても、です。

くうはそういう自らの特異性・・・にずっと無自覚に生きてきたわけですが、『悲鳴伝』の序盤でそれを指摘されます。
ますます自分を客観視できるようになるわけです。

で、そんな空がヒーローになる物語が『悲鳴伝』です。
……一気に飛躍した感が否めませんが、ほんとうにそういう物語なんですよ!

ネタバレLevel②での情報はこれくらいにしておきましょう。

一つ言えるのは、空がヒーローになり得るのは彼の特異性があってこそということです。

……ご想像の通り、テンプレートなヒーローにはなりません。

くうがどんな出来事に遭遇し、それでも普通の反応を演じ、そしてヒーローになっていくのか。
ぜひぜひお楽しみください!

ネタバレLevel③『悲鳴伝』のおすすめ&感想

ここからはネタバレに配慮せず感想を書いていくのでご注意を!

いやー、読みごたえありましたね、『悲鳴伝』。
世界観や文体を楽しもうと思ってかなりゆっくり読んだのですが、読了まで2週間ほどかかってしまいました。

実は僕、西尾維新先生の作品の中では『戯言シリーズ』がいちばん好きなのですが、『悲鳴伝』はそれに次ぐかもしれません。

くうの特異性に共感できたのが大きかったんだろうなと思います。

なんというか……僕は無感情でこそありませんが、人の目を気にしすぎる性格なんですよね。
わりと普段から「今、自分はどう振る舞うべきなんだろう……?」と考えながら生きている人間ゆえに、くうには多少なりとも感情移入させられました。

怪人が美しすぎて直視できない。
でも無感情なくうは目にしても平気。
この2点でもって、主人公をヒーローに仕向ける構造は秀逸だなーと思いました。

肉体的(戦闘能力的)には普通の少年なのに、無感情由来の思考力とメンタルで怪人を退治していく形は、万人が描くヒーロー像とはかけ離れていて新鮮です。
ダークヒーローともちょっと違う気がしますし。

しかも無感情だからといってくうは飄々としているわけでなく、無感情なことを恥じて反応や行動を演じるものだから、そこに葛藤が見て取れます。
葛藤が皆無の小説にはなかなか魅力が生まれないものなので、このあたりも世界観や設定を巧く活かしているなと感じた点ですね。

ストーリーそのものも楽しめますが、西尾維新先生の作品全般がそうであるように小説という文章そのものを楽しみながら読むべき作品だったように思います。

そして相変わらずというか、どのキャラもぶっとんでいて魅力的でした。

僕は一番共感したのがくうでしたが、「狼ちゃん」がすごく好きになったキャラだったので、あんなことになったときは「まじかよ……」と思いました。
いや、フラグは立ってましたが、まさかあんなにもあっさりと……。
西尾維新先生にしてやられたといったところでしょうか……。

ストーリーに関しては「くうがヒーローになる」という一貫性こそある一方で、様々な出来事が入れ替わり立ち替わり起こる構成だったので、良くも悪くも予想はしにくかったです。
一つの大きな流れに沿って進むストーリーが好みの人にはちょっと向かないかもとは思いました。

とはいえ随所に先を読ませる工夫(情報を前出ししたり、あえて結末を匂わせたり)が施されていることもあり、一度読み始めたらページをめくる手が止まらなくなる人は多いでしょうね。
僕自身、読み進めるのがもったいなくなるような感覚になりながら、味わうように読むことができました。

なによりラストが衝撃的というか、鮮烈な作品でした。

花屋と、なにより剣藤の最期には両者異なる感慨を抱かされます。

花屋の無邪気というにはあれですが、悪と断じるのもはばかられる個性。
くうを助けずにいられなかったのが花屋の敗因なのに対し、自分への執着を承知の上で(しかも相手は幼馴染み)どこまでも利用・・してみせた”ヒーロー”・くうのコントラストは美しくすらあります。

一方で、究極にぶっとんだキャラだと思わされる登場を果たした剣藤は、物語が進むほどに悲劇に見舞われた”普通の少女”に見えてきます。
そんな剣藤が最期は、悲劇でありながら、同時に救いも見い出すのですから感動せずにはいられません。

エンタメ作品として楽しめるのはもちろん、いろんなことを考えさせてくれる深い作品でもあるように思いました。

おわりに

『悲鳴伝』は、『伝記シリーズ』の第一弾とのことで空の物語はまだまだ続くようです。

すでに第二弾となる『悲痛伝』も購入してあるので、引き続き楽しませていただこうと思います。

それでは今回はこのあたりで。
さいごまで読んでくださり、まことにありがとうございました!

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葛史エン(くずみ えん)
葛史エン(くずみ えん)
小説好き(読書/執筆)
おすすめ小説を紹介したり、自分で小説書いたりしてる人。創作論を勉強したり、作家視点で小説を読むのが好き。小説を書いている人向けに「小説感想サービス」も販売中です。(プロフィールイラスト作製:とねむにかさん)
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