【7冊目】城平京『名探偵に薔薇を』おすすめ&感想
最近、ミステリー小説にハマっています。
これまであまり読んでこなかったんですけどね、ミステリー。
頭良くないので、読んでいて理解しきれないんですよ。
自分で書けるはずもないから、どうせなら自分の執筆の勉強になる小説を読みたいって考えもありました。
そろそろ挑戦してみようと決意した次第です。
……と言いつつ、推理はせず純粋に物語として楽しんでしまっています。
それでも面白いので、ミステリーの根強い人気も納得ですね。
ということで7冊目はミステリー小説です。
城平京先生の『名探偵に薔薇を』。
なぜ選んだかというと、作家買いですね。
城平京先生が原作の漫画大好きなんですよ。
『スパイラル』『ヴァンパイア十字界』『絶園のテンペスト』はどれも名作だと思いますし、自分で小説を書くときもかなり影響受けてます。
そして『名探偵に薔薇を』は城平京先生のデビュー作とのこと。
……デビューした頃から、持ち味は一貫しているのだなと思わされる一冊でした。
おすすめの漫画『スパイラル』『ヴァンパイア十字界』『絶園のテンペスト』のリンクも貼っておきますね!(面白いですよ)
「おすすめ&感想記事」の読み方
まずは記事の読み方からです。
これは毎回載せるので、「くどいよ!」と思う人は読み飛ばしてくださいね。
最初に独断と偏見で、読了した作品への評点を発表します。
プロの先生方の作品を評価するという行為に抵抗はありますが、この形が一番わかりやすいんじゃないかなぁと思っています。
以下の感じです。
- 各項目10段階で採点。(特に優れていたら10点以上もつけます)
- 評価項目は随時変わる、かも。
- 記事にするのは平均7点以上になった小説のみです。よって、このブログで紹介しているのは僕がとくに面白いと感じた作品ということになります。
- 小説への評価(感想)は人生を通して変化していくもの。再読した場合には第2弾以降の評点も追記します。(以前の評点もそのまま残しておきます)
以降、3段階に分けて、小説の感想やおすすめポイントを書いていきます。
あえて3段階に分けるのは、作品のネタバレ度合いを選択できるようにするためです。
単行本裏表紙のあらすじ(またはネット販売ページ上のあらすじ)を引用せていただき、それを元にして僕の抽象的な感想をお伝えします。
必要最低限のネタバレのみで読み始めたい人はここまで。
物語の核心には触れませんが、どんなストーリーなのかや、どんな気持ちにさせてくれる小説なのかといった僕なりの感想を書いていきます。
ある程度ネタバレを避けつつ、自分に合った小説なのかを吟味してから読み始めたい人はここまで。
読了済みの人に向けた感想です。
みなさんと感想を共有できたら嬉しいです!
【独断と偏見】『名探偵に薔薇を』の評点
『名探偵に薔薇を』を独断と偏見で評点します。
ストーリー 12 | 物語としては7点。ミステリーとしては15点。……のイメージで点けました。 まあ僕はミステリー初心者なので、知識不足による高得点の感も否めません。ただですね、二部構成なのですが、第二部の真相は素人目にもちょっとすごいです。ミステリー好きの人でもあれは読めないのではないでしょうか……? 物語的に点数低めなのは、ミステリー要素重視の構成なのと、テーマ性が高すぎると感じたからです。 |
キャラ 7 | キャラで見せる作品ではないので、必要十分といった所感。 でも”名探偵”のキャラ造形はかなり良いです。名探偵のジレンマというか……人間離れした頭脳の名探偵も人なんだな、と思わせてくれます。 |
没入感 8 | キャラへの感情移入度は低めだと思いました。……というか、これは感情移入しすぎるとキツいかもです。 第二部の終盤はかなり惹き込まれます。良くも悪くも、ですが。 |
エモ度 (感情的) 10 | 読了後のなんともいえない感慨は、まさに”エモい”といった感じ。 第一部は多少退屈するシーンもありますが、それを差し引いても高得点を点けざるを得ませんでした。 |
読み味 5 | 当然ながら文章力は高いです。ただ文体がかなり堅く、耳慣れない表現もちらほら。気になる人は気になるかもです。 点数が低めになったのは、ひとえにグロくて残虐な表現があるからですね。僕は読んでいて不快な気分になった程度で一応は平気でしたが、苦手な人はご注意ください。 |
合計点:42 平均点:8.4 | 点数は伸び悩みましたが、評価項目ではお伝えしきれない魅力のある作品です。 もともと第二部の案があって、その導入として第一部を付け足した作品らしいです。つまり、第二部の凄みが最大の魅力なので、読み始めた人はぜひ最後まで読んでもらえれば幸いです。 |
ネタバレLevel①『名探偵に薔薇を』のおすすめ&感想
むかしむかし、それはわるい、とてもわるい博士がいました。悪行の限りをつくしたあげくあっさり死んでしまいましたので、仲間を殺された小人たちのうらみのはけ口がありません。話しあいのけっか、ハンナ、ニコラス、フローラの三人をやりだまにあげることに決めました。つもりつもったうらみをはらすと、村にへいわがもどりました。めでたしめでたし。〜『メルヘン小人地獄』より〜
『名探偵に薔薇を』城平京(東京創元社)裏表紙より
『名探偵に薔薇を』の文庫本。その裏表紙に書かれている作品紹介になります。
童話風の語りですが、つっこみどろこ満載ですね……。
この独特な感性が城平先生らしいと言えばらしいですが。
ちょっとこれでは意味深すぎるので、別の所からも引用しますね。
表紙を開いてすぐの1ページ目に、もう一つ作品紹介がありました。
始まりは、各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。それは、途方もない毒薬をつくった博士と毒薬の材料にされた小人たちの因果を綴る童話であり,ハンナ,ニコラス,フローラの三人が弔い合戦の仇となって、めでたしめでたし,と終わる。やがて童話をなぞるような惨事が出来し、世間の耳目を集めることに。第一の被害者は廃工場の天井から逆さに吊され,床に「ハンナはつるそう」という血文字,さらなる犠牲者……。膠着する捜査を後目に、招請に応じた名探偵の推理は? 名探偵史に独自の足跡を印す,斬新な二部構成による本格ミステリ。
『名探偵に薔薇を』城平京(東京創元社)1ページより
こっちの紹介文ははちゃんとしています。
どうやら、裏表紙の童話と、1ページ目の作品紹介が繋がっているようです。
裏表紙で興味を引いて、ページを開かせてから本命を読ませるという作戦でしょうか?
というわけで『名探偵に薔薇を』は、「メルヘン小人地獄」なる童話を模倣する事件を解決するミステリーです。
第一の犠牲者は廃工場で逆さ吊り……。
なかなかに猟奇的ですが、このシーンに限らず残虐でグロいシーンがたくさん登場するのも本作の特徴。
良くも悪くも現実感のない世界観を楽しめます。
さて。童話『メルヘン小人地獄』では「ハンナ」「ニコラス」「フローラ」が、小人たちの逆恨みの対象になっているわけで、それを模倣した事件となれば当然——。
- 「ハンナはつるそう」
- 「ニコラスは煮よう」
- 「フローラはむこう」
……ご期待ください。
ネタバレLevel②『名探偵に薔薇を』のおすすめ&感想
公式の作品紹介は事件の内容ばかりだったので、ここからはもう少し踏み込んで『名探偵に薔薇を』の魅力をお伝えしていきます。
物語の語り手は「三橋宗一郎」。
多方面に才能を発揮する大学院生で、性格的にはかなり安定している大人びた青年です。
家庭教師をしている「藤田鈴花」が両親とともに事件に巻き込まれるのですが、お人好しの三橋は放っておけず、メンタルケアにとどまらず事件解決にまで乗り出します。
しかし三橋が主人公かと言われるとそうでもなくてですね……。
これはその始まりと終わりの物語であり、またその終わりを律した名探偵、瀬川みゆきの物語である。
『名探偵に薔薇を』城平京(東京創元社)18ページより
かなり序盤で『名探偵に薔薇を』が「名探偵・瀬川みゆき」の物語であることが明言されます。
個人的にはこの一文がかなり大切だなーと思っています。
というのも、名探偵の出番はけっこう後なんですよ。
名探偵の存在を明かしておかないと、デウスエクスマキナみたいになってしまいそう。
ちなみにデウスエクスマキナの直訳は「機械仕掛けの神」。
物語において、突如現れた神様のような存在によって、困難な状況が解決されてしまうことを指します。
ご都合主義とも言いますね。
名探偵・瀬川みゆきは、それこそ神のような洞察を持つ女性です。
ヒーローは遅れてやってくるとばかりに登場こそ遅いですが、相当のインパクトがありますのでお楽しみに。
——そしてそんな瀬川みゆきに”薔薇”を送ることになる第二部へと物語はつづきます。
城平京先生の真骨頂である一転二転する高度なミステリー。
そして『名探偵に薔薇を』というタイトルの意味は……?
硬い文体に加えて残虐なシーンもあり、多少の読みづらさはありますが、絶対に最後まで読んでほしいミステリー小説です。
- タイトルはこれ以外ありえない!
- 衝撃を与える驚異の二部構成
- ※こんな傑作ミステリを今まで知らなかったことをきっと後悔します。
文庫本の帯のアオリに偽りはありません。
ネタバレLevel③『名探偵に薔薇を』のおすすめ&感想
この先はネタバレに配慮していません。
読了済みの人に向けて書いていますのでご注意を!
ミステリを読み慣れていない僕では、少々頭がこんがらがってしまったのでミステリーの勉強と備忘録を兼ねて、第二部の事件と真相をまとめておこうと思います。
義母の犯行を阻止しようとした鈴花が誤って殺人を犯した
義母は父が自分を大切にすることに嫉妬心を抱いていると気付いていた鈴花。
そんな中、義母が小人地獄を持ち出すのを目撃してしまう。
義母が自分のカップに小人地獄を塗ると予想した鈴花。
阻止したいが、優しい鈴花は義母の嫉妬心に同情もしていて、義母の犯行を公にしたくはない。
そこで義母の犯行に合わせて、ポットに残りの小人地獄をすべて投入した。
義母が鈴花のカップに塗った毒は口をつけたときに付いたと思われ、義母の犯行は露見しない。
小人地獄もすべて処分できるから、義母の次の犯行も抑止できる。
高濃度の小人地獄は苦くて飲めないから、死者は出ないはずだった。
しかし不運にも、無味覚症の被害者が最初にお茶を飲んだことで死亡してしまった。
三橋が鈴花と義母に嘘を教えて安全圏から犯行を誘導した
三橋は鈴花を”消極的に”そそのかした。
「義母が鈴花の命を狙っている」
「義母の犯行を明るみにせず阻止するにはポットに大量の”小人地獄”を入れるしかない」
「高濃度の小人地獄は苦く飲めないから誰かが死ぬことはない」
被害者が無味覚症だと知っていた三橋は、被害者が最初にお茶を飲むよう誘導。
鈴花は予想外の殺人を犯してしまうが、ポットに小人地獄を入れると決めたのはあくまで自分。世話になっている三橋の案であることは口にしない。
一方の義母は犯行を思いとどまっていた。が、鈴花の罪を軽くするためだと三橋に提案されて、カップに毒を塗ったと嘘の証言をする。
三橋は鈴花と義母の二人に嘘を教えることで、互いを想いやる心によって自分の嘘が露見しないようにした。
事件を起こすことで瀬川を呼び出したかった鈴花による犯行。
鈴花は瀬川に恋い焦がれていた。
死者を出すつもりはなかったが、不運にも無味覚症の被害者が最初に飲んでしまった。
『名探偵に薔薇を』の二部は、いかにも城平京先生らしいですね……。
”らしい”というのは、城平京先生が原作をした漫画と比べてです。
具体的には……。
- 説得力を持たせた上で、話を大きく一転二転させている点。
- 複数のキャラの感情を緻密かつ複雑に絡めている点。
名探偵を惑わせに惑わせた事件の結末が、少女が名探偵へ抱いた恋心……。
真実だった「第三の真相」があまりに単純なのが何とも儚いです。
”ミステリー要素”の部分がスゴすぎて目立ちますが、”名探偵・瀬川みゆきの物語”としても形容しがたい読後感を抱かせてくれます。
読み始める前はタイトルの”薔薇”をどう捉えるべきかと考えました。
「気高く美しい花」とするのか「棘のある花」なのか……。
どう捉えるかは読者次第ですが、赤い薔薇の花言葉が「愛情」「愛しています」であることを考えると、鈴花が名探偵へ送ったのが薔薇だった……という解釈でいいのでしょうか。
(薔薇の色が赤かは不明ですが、少なくとも文庫本表紙の薔薇は赤色ですね)
”鈴花”という名前に”花”の一字が入っているのも意味深です。
妹への罪悪感から、どんなに苦しくても名探偵として生きるしかない瀬川みゆき。
そんな名探偵の前に現れたのは、妹によく似た少女。
彼女が名探偵を救う存在のなるのかと思いきや、送られたのは薔薇——つまり「愛情と棘」だった。
僕はどちらかと言えばハッピーエンド、もしくは僅かでも救いの感じられるエンドが好きなのですが、これはあまりに救いがなさすぎる……。
続編は無いようで、やりきれませんね。
瀬川みゆきが、妹と鈴花への罪悪感から解放され、できればなおも名探偵として生きる物語を読んでみたいものです。
『名探偵に薔薇を』。
驚愕と感嘆のミステリー要素。
そして、なんとも言えない読後感を味わわせてくれる作品でした。
やはり城平京先生の作品、好きです。