【3冊目】冲方丁『光圀伝』のおすすめ&感想
1冊目、2冊目と最近読んだ小説からご紹介しましたが、こだわる必要もないかなーと思ったので、3冊目は過去に読んだものからです。
冲方丁先生の『光圀伝』になります。
冲方丁先生は僕が一番尊敬している作家さんでして、SFを主体にミステリーや歴史もの、ライトノベルに至るまで幅広く執筆されています。
入念な下調べをした上で理論的に書くタイプの作家さんのようで、文体も作品ごとに変えていますね。
そんな冲方丁先生の著書の中でも『光圀伝』は個人的に別格というか、僕にとっては人生におけるバイブルのような一冊です。
何度も読んでいるし、オーディオブックでもくり返し聴いているほどです!
内容は、水戸光圀の生涯を描ききった歴史小説。
……水戸光圀よりも、徳川光國の方が聞き慣れているかもしれませんね。
いえ、水戸黄門の方が知名度が高いでしょうか?
お供の二人とともに全国を漫遊する好々爺が、悪者を懲らしめる時代劇『水戸黄門』。
印籠を目にした悪者たちがいっせいにひざまずくシーンはあまりに有名ですよね。
(一説によると、光國が全国を旅したという記録は無いようで、時代劇の『水戸黄門』はフィクションらしいですが)
『光圀伝』では、そんな水戸の黄門様こと水戸光圀の生涯が語られます。
幼少期から最期まで、どのシーンを見ても熱くさせられること必至です。
「こんなふうに生き抜きたい!」と思わせてくれる小説ですよー。
2023年4月現在、『光圀伝』はAudibleにてオーディオブックで聴くことができます。
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「おすすめ&感想記事」の読み方
まずは記事の読み方からです。
これ毎回載せるので、「くどいよ!」と思う人は読み飛ばしてくださいね。
最初に独断と偏見で、読了した作品への評点を発表します。
プロの先生方の作品を評価するという行為に抵抗はかなりありますが、この形が一番わかりやすいんじゃないかなぁと思っています。
以下の感じです。
- 各項目10段階で採点。(特に優れていたら10点以上もつけますが)
- 評価項目は随時変わる、かも。
- 記事に書くのは平均7点以上になった小説のみなので、このブログで紹介しているのは僕がとくに面白いと感じた作品ということになります。
- 小説への評価(感想)は人生を通して変化していくものだから、再読した場合には第2弾以降の評点も追記します。(以前の評点もそのまま残しておきます)
そして評点の後からが本題。
ネタバレ度合いで、3段階に分けて小説のおすすめ&感想記事を書いていきます。
単行本裏表紙のあらすじ(またはネット販売ページ上のあらすじ)を引用せていただき、それに対する僕の抽象的な感想をお伝えします。
必要最低限のネタバレのみで読み始めたい人はここまで。
物語の核心には触れませんが、どんなストーリーなのかや、読むとどんな感情になる小説なのかといった僕なりの感想を書いていきます。
自分に合った小説なのかを吟味して読み始めたい人はここまで。
読了済みの人に向けた感想です。
みなさんと感想を共有できたら嬉しいです!
【独断と偏見】『光圀伝』の評点
『光圀伝』を独断と偏見で評点します。
ストーリー 10 | 史実に基づいたストーリーですが、物語としての見せ方が秀逸で、さすがは冲方先生といった感じです。章の合間に「明窓浄机」と称して、晩年の光國が当時(その章で起きる出来事)を振り返るのですが、この一人称が秀逸です。そのシーンで起きることがどういうことなのかを、情緒たっぷりに知らせてくれています。 |
キャラ 13 | 実在した人物が大半を占める歴史小説でキャラを評するのも変な感じですが、『光圀伝』は光國を筆頭に魅力的なキャラばかりです。冲方先生は執筆にあたり多くの資料を収集して調べ上げたそうで、それをもとにした人物造形が成されています。上っ面な性格を付与するのでなく、歩んできた人生ゆえの価値観や信念が滲み出るキャラたちです。 |
没入感 12 | 物語を通して光國の視点で語られます。(三人称です) 光國といっしょに臨場感たっぷりの苦悩を味わい、弾けんばかりの達成感を体験することができます。 読み終えれば、光國という偉人の人生をすべて追体験したような感覚になるはずです。 |
エモ度 (感情的) 10 | 『光圀伝』は光國の生涯を描きます。当然、様々な出来事が起きますが、特に注目して欲しいことが二つあります。一つは光國が抱く”大義”が実現するかどうか。もう一つはプロローグで提示される”謎”の真相について。『光圀伝』はこの2つを主軸に描く物語なので、それが結実するシーンの臨場感と感動はほんとに凄まじいです。 |
読みやすさ 7 | 大好きな文体で自分が執筆するときも意識しているくらいなので、10点以上点けたいところですが……。 独断と偏見による評点とはいえ、さすがに自重しました。 硬い文章。テーマ性が高い。歴史小説だから当然ですが難しい単語も多い。光國の挫折もすべて描くから暗く憂鬱なシーンもある。なによりページ数も多い。 読み切るには、ある程度の根気が必要です。 |
合計点:52 平均点:10.4 | 一番好きな小説とあって、他の小説より冷静な評点はできていないかもしれません。(ほんとはもっと高得点にしたいくらいですが、控えました) 僕の趣向が多分に含まれた評点ではありますが、大げさでなく人生観を変えてくれる一冊です。 |
ネタバレLevel①『光圀伝』のおすすめ&感想
泰平の世を駆け抜けた熱き“虎”、水戸光圀。
なぜこの世に歴史が必要なのか――。本屋大賞受賞『天地明察』と対を為す、大河歴史小説!「なぜあの男を自らの手で殺めることになったのか」――老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎でその経緯と己の生涯を綴り始める。
『光圀伝』冲方丁(Amazonの作品紹介より)
父・頼房の過酷な“試練”と対峙し、優れた兄・頼重を差し置いて世継ぎに選ばれたことに悩む幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れる中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて文事の魅力に取り憑かれた光圀は、学を競う朋友を得て、詩の天下を目指す――。
誰も見たことのない“水戸黄門”伝、開幕。
多くの小説は、主人公の人生の一部を切り取って語られます。
ですが『光圀伝』では、光國の幼少期から最期の瞬間までを描ききっています。(僕は他の歴史小説を数冊しか読んだことがないのですが、歴史小説ってそういうものなんですかね……?
作品紹介は「詩の天下を目指す」で締めくくっていますが、詩が主体の話ではありません。
詩もかなり重要な要素で話に絡んできますけどね。
武士として、なにより水戸藩の次期領主として幼い光國は厳しく育てられます。
父に課せられる、現代の感覚だとあり得ないような試練の数々。果敢に、時には弱気を押し殺して挑んでいく光國の姿を応援せずにはいられません。
一転してやんちゃな面を見せるようになった青年期には、あの宮本武蔵との出会いも果たしています。
しかし、その時には大きな過ちを犯していて……。
人生に出会いは必須です。
頼もしすぎる兄の存在。
憎たらしくも頼もしい生涯の友との出会い。
天姿婉順たる妻と、その側近の怜悧な少女との出会い。
次代を託すべく育てることになる少年との出会い。
数々の出会いと、それにともなって訪れる別れを糧に光國は成長していきます。
光圀の人生をぜひ見届けてください!
ネタバレLevel②『光圀伝』のおすすめ&感想
もう少し踏み込んでいきます。
『光圀伝』は”義”の物語です。
ネタバレLevel①で引用した作品紹介にある経緯の果てに、光國は自分なりの「大義」を見つけます。
自分が定めた目標(大義)のために奔走する光國の姿には熱くさせられますし、こんなふうに生きたいと思わされます。
そしてそして。
冒頭で投げかけられる「なぜあの男を自らの手で殺めることになったのか」という謎も重要なんです。
……この謎の答えが明かされるシーンがほんとにスゴいですよ。なんというか、とにかくスゴい。
もしかしたら日本史を少し知っている人にとってはぶっとんでいるかもな答えですが、これでもかってくらいの説得力と、なにより臨場感に溢れたシーンとなっています。
ページ数も多くて長い話ではありますが、そこはさすが冲方丁先生。
読者の興味を惹き続ける工夫の数々が凝らされていますので、超長編に挑むような気持ちで読み始めてみてくださいね!
これを機に『光圀伝』を読んでくださる方が一人でもみえたら、そんな嬉しいことはありません。
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ネタバレLevel③『光圀伝』のおすすめ&感想
僕たちもいつか、命を終えるときがきます。
誰だって理解していることです。
でもそれは頭で分かっているというだけで、まったく実感のないものですよね。
こういう「実感のないこと。知らないこと」を擬似的とはいえ体験させてくれるのが、小説の魅力の一つだと常々思っています。
もちろん映画やドラマ、漫画といった「物語る媒体」は全部そうなのですが、文字を介した感情描写に長けた小説はひときわだな、と小説書きの端くれとして信じています。
小説は、他の媒体のように視覚や聴覚に直接訴えかけることができません。
でも代わりに言葉を駆使し、様々な表現を用いることで読者に想像させ、あたかも主人公になったような感覚にさせてくれます。
これを読んでいる皆さんは、僕を含めて人生を終えた経験がない。
『光圀伝』はそれを体験することができます。
それも水戸光圀という、美事なまでに人生を生き抜いた人物の全てをです。
一番好きな小説ということもあり、どこまでも主観的な感想になってしまいますが……。
『光圀伝』での光國の生き方に憧れるんですよ。
生まれ持った才能や地位に甘んじることなく、自分を疑いながらも自己鍛錬していく姿。
どんな挫折を味わっても、生き抜くことを諦めない信念。
出会いと別れくり返しながら世を生き、果てで後生へ繋ぐことに意義を見つける人生観。
たびたび”義”という言葉を口にし、常に正しく在ろうとする生き方。
これほどの熱量を持って生き抜けたら、そんな素敵なことはありません。
自分に残された時間が長いのか短いのかわからないけれど、光國のような人生を生きたいと思わせてくれます。
——そういう意味で、人生のバイブルのような小説だと紹介させていただきました。
『光國伝』は、光國以外の登場人物も魅力的です。
これほどの兄は他にないと思わせる、人柄も才能も非の打ちどころのない頼重。
博識ぶり凄まじく、光國との関係性も痛快だった読耕斎。
短命ながら爛漫とした生き様を見せてくれた泰姫。
長きにわたって変わらぬ立ち位置から光國の大義と命とを見届けた左近。
……尊敬すべき人物が多すぎて挙げきれませんが、様々な人生を垣間見せてくれるのも『光圀伝』という作品の魅力です。
だからこそ、何度でも読んでしまうのかもしれませんね。
これを書いている今の僕は、光國が父の死後に水戸藩領主の座を継いだ年齢とほぼ同じ。
そう思うと己を不甲斐なくも感じますが、同時に気力がみなぎってきます。
僕はこの先こんなふうに、自分の年齢と、同じ時期の光國を比べながら生きていくはずです。
人生を共にできる一冊と出会えたことを幸福と思わずにはいられません。
語りたいことは尽きませんが、今回はこれくらいにしておきます。
自信を持って一番好きな小説だと紹介できる一冊『光圀伝』の感想でした。
いつも以上に感情的な記事になってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました!