【2冊目】住野よる『青くて痛くて脆い』のおすすめ&感想
僕が読んでいる小説の中から、おすすめを紹介する記事。
2冊目は住野よる先生の『青くて痛くて脆い』です。
住野よる先生の小説を読むのは初でして、ほんとは『君の膵臓をたべたい』を読もうと思っていたのですが、行きつけの本屋で売り切れていまして……。
代わりに、美しい青の表紙に惹かたこちらを手に取った次第です。
住野よる先生の作風。
美しくも儚い恋愛系なのかなと勝手なイメージを持っていましたが……。
まさに”青くて痛くて脆い”物語でした。
「おすすめ&感想記事」の読み方
まずは記事の読み方からです。
これ毎回載せるので、「くどいよ!」と思う人は読み飛ばしてくださいね。
最初に独断と偏見で、読了した作品への評点を発表します。
プロの先生方の作品を評価するという行為に抵抗はかなりありますが、この形が一番わかりやすいんじゃないかなぁと思っています。
以下の感じです。
- 各項目10段階で採点。(特に優れていたら10点以上もつけますが)
- 評価項目は随時変わる、かも。
- 記事に書くのは平均7点以上になった小説のみなので、このブログで紹介しているのは僕がとくに面白いと感じた作品ということになります。
- 小説への評価(感想)は人生を通して変化していくものだから、再読した場合には第2弾以降の評点も追記します。(以前の評点もそのまま残しておきます)
そして評点の後からが本題。
ネタバレ度合いで、3段階に分けて小説のおすすめ&感想記事を書いていきます。
単行本裏表紙のあらすじ(またはネット販売ページ上のあらすじ)を引用せていただき、それに対する僕の抽象的な感想をお伝えします。
必要最低限のネタバレのみで読み始めたい人はここまで。
物語の核心には触れませんが、どんなストーリーなのかや、読むとどんな感情になる小説なのかといった僕なりの感想を書いていきます。
自分に合った小説なのかを吟味して読み始めたい人はここまで。
読了済みの人に向けた感想です。
みなさんと感想を共有できたら嬉しいです!
【独断と偏見】『青くて痛くて脆い』の評点
『青くて痛くて脆い』を独断と偏見で評点しました。
ストーリー 6 | 終盤からラストまでを重視するストーリーに思えました。そのために序盤と中盤を費やしているので、最初のうちは多少の退屈感があります。 ただ、終盤の展開と演出とは怒濤。必見です。 |
キャラ 7 | 一人一人に個性というか、テーマのあるキャラ造形です。個人的にですが主人公に感情移入しにくかったです。というよりもこれは……? |
没入感 7 | この項目は中盤まで採点4くらいだったのですが、終盤以降でやられました。終盤だけ見ると10点超えてます。 |
エモ度 (感情的) 11 | 序盤でノらない人も、絶対に最後まで読んで欲しい。終盤がほんとうにエモいです。 |
読みやすさ 9 | 主人公の一人称が読みやすく、表現も多彩。”小説”を楽しめます。行動描写にもリアリティがありました。 回想を多用する構成は読者を混乱させやすいものですが、回想を巧みに扱っています。 |
合計点:40 平均点:8.0 | 終盤からラストのために、序盤と中盤で力をためている印象なので、人によっては根気よく読む必要があるかもです。 読み始めたら、絶対最後まで読むことをおすすめします。 テーマというか、メッセージ性が強いのも特徴。『青くて痛くて脆い』というタイトルがぴったりの作品です。 |
ネタバレLevel①『青くて痛くて脆い』のおすすめ&感想
人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学1年の春、僕は秋好寿乃に出会った。周囲から浮いていて、けれど誰よりもまっすぐだった彼女。その理想と情熱にふれて、僕たちは二人で秘密結社「モアイ」をつくった。——それから3年、あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。そして、僕の心には彼女がついた嘘が刺のように刺さっていた。傷つくことの痛みと青春の残酷さを描ききった住野よるの代表作。
『青くて痛くて脆い』住野よる(角川文庫)の裏表紙より
主人公は僕こと主人公・楓。
「人に不用意に近づきすぎないことが信条」の主人公って、わりと多い気がするのは僕だけでしょうか?
そういう主人公の方が思考が多岐に渡るから、ストーリーづくりや一人称の文章に深みが出やすいというのはありそう。
思えば僕も、自作小説の主人公は大体がこのタイプですね。(僕の場合は主人公に自己投影してる感も否めませんが)
コミュ力抜群で竹を割ったような性格の主人公の一人称も読んでみたいところ……。
皆さんのおすすめがあれば教えてくださいね。
話が逸れましたが、大学に入学した楓は、秋好寿乃と出会います。
この秋好。
講義中に、講師の話をさえぎってまで質問をぶつけてしまうような性格です。
しかもその内容がなかなかに振るっておりまして、いわく「子供のような理想論」ばかり。
世界に暴力はいらない、世界は平和であるべき、みたいな感じですね。
言っていることはしごく正しいのですが、他の学生たちの嘲笑を浴びてしまいます。
講義で隣の席だった楓に、秋好が気さくに声をかけたのが物語のはじまりです。
最初こそ「痛いヤツと関わりたくない」と思っていた楓ですが、無邪気に絡んでくる秋好を無下にもできず気を許していきます。
知れば知るほど”理想を追っている”秋好。
そんな秋好の思いつきで結成する運びとなるのが秘密結社「モアイ」です。
「モアイ」の信条は「大学生活4年間でないたい自分になる」こと。
曖昧ですよね。でもだからこそ、”理想”へつながる希望に満ちている……はずでした。
——ネタバレを控えて紹介するとこんな感じですが……。
タイトルからも分かる通り、幸せに満ちた優しいだけの物語ではありません。
なので痛みを伴う話が苦手な人には向かないかもです。
加えて人によっては(少なくも僕には)、ある程度読み進めるまで面白く感じないかもしれませんね。
一方で終盤からラストに向けては怒濤というか、あらゆる意味で熱い展開が待っているので、ぜひぜひ期待して読み進めてください。
一読の価値ありですよ!
ネタバレLevel②『青くて痛くて脆い』のおすすめ&感想
この先はちょっとだけネタバレありますのでご注意を!
物語の大きな流れ——。
主人公・楓の目的は「モアイ」を潰すことです。
秋好と立ち上げた「モアイ」でしたが、3年経った現在の「モアイ」はまったくの別の団体と化してしまいました。
「なりたい自分になる」という信条は忘れ去られ、就活生と企業がコネをつくるための場所となってしまった「モアイ」。
楓は空虚さと憤りを感じています。
理想を語っていた秋好も今はいません。
就職先も決まって大学生活を振り返る段階になった楓は、親友の理想を取り戻そうと決意しました。
友人の董介と共に「モアイ」を潰す計画を練っていきます——。
……というわけで本作は、理想を失った団体への復讐の物語となります。
楓は「モアイ」と直接に対峙せず秘密裏に情報を探ったり、身元を晒すことなく計画を進めていきます……。
そういうシーンが中盤まで続くため、この点が個人的に退屈と感じました。
加えて、大きな集団を個人(楓と董介の二人)が倒そうとする話なので、姑息と思える手段を用いることにも……。
この点も、僕はあまり好きな流れではありませんでした。
僕は主人公に感情移入して読みたいタイプなので、主人公が小狡いことするのをあまり好まないようです。
あくまで客観的に読む読者さんなら平気かもしれませんね。
……と、個人的にネガティブだった点を続けて語ってしまいましたが、実はこの工程がすごく大事なんですよね、『青くて痛くて脆い』という作品には。
繰り返しお伝えしていますが、終盤からラストにかけては本当に圧巻なのでお楽しみに!
ネタバレLevel③『青くて痛くて脆い』のおすすめ&感想
この先は読了済みの人を想定した感想です!
さっそくの完全ネタバレですが『青くて痛くて脆い』のポイントは以下の2点でしたね。
- 秋好=ヒロ=「モアイ」の現リーダーであること。
- 「楓が破滅に向かっていく物語」だったこと。
まず①に関して。
あの時笑った秋好はもうこの世界にいないけど。
『青くて痛くて脆い』住野よる(角川文庫)33ページより
序盤。この書き方は生死が曖昧だなぁと思いました。
その後いくら読み進めても秋好が病気であるとか、何か事件に巻き込まれたといった情報が出てきませんでしたから。
しかし現在も「モアイ」のリーダーだったとは盲点でした……。ちょっと悔しい。
勘の良い読者さんは気づいたんでしょうか?
てっきり秋好は味方側で出てくると予想していたのですが。
秋好=ヒロ=「モアイ」の現リーダー。
これが一つ大きなサプライズだったわけですが、この構成だと秋好をラストまで登場させられず、その点は残念に感じました。
というのも秋好の存命と、適役であることを早めに明かして、互いの想いをぶつけあっていく展開も読んでみたかったと一瞬思ったので。
”一瞬”というのは、『青くて痛くて脆い』の凄みは今の展開でしか描けないと思い直したからです。
終盤からラストに向けての怒濤の展開はもちろん、楓と秋好のすれ違いが招いた最悪の事態を描くには、やはりあの形が一番美しいのでしょうね。
……個人的には、秋好がリーダーと知りながら楓が報復染みたことしてるのが正直イヤでしたね。
久々に、とことん好きになれない主人公でした。
それでも秋好がリーダーであることが明かされてからのシーンはどれも熱量がすごくて感動しました。
展開はもちろんですが、一人称の文章と言葉選びが秀逸すぎる。そりゃ読者も感情移入するよなって感じです。
で、もう一つポイントと思ったのが「楓が破滅に向かっていく物語」だったことですね。
前述したように楓が裏でこそこそ報復しようとする流れは読んでいて気持ちよくなかったんですよね。
これが僕個人の感性でしかないのか、はたまた住野よる先生が狙っているのかが読んでる間は判然としなかったわけですが……。
住野よる先生、おそらく楓に対する反感を読者にあえて抱かせてますよね……!
だからこそ、楓の破滅が映えます。(ちょっとひどい言い方ですが)
これが仮に、楓が「モアイ」を消滅させてハッピーエンドっていう話だったら、僕は確実にこのおすすめ記事を書いていませんでした。
評点が平均7点以上になった小説しか記事にしないので。
この物語は楓が破滅する結末だからこそ意義があります。
読者に「楓、これは間違ってるんじゃ……?」と思わせてからの、楓が報いを受けるシーン。
そして受けた罰に対する反応を描くシーンの数々。
僕は読者視点で感嘆し、作家視点では尊敬の念すら抱きました。
これもまた”青春”と思わされます。
どん底を経験したからこその、救いのシーンが最後にあるのも良い!
成長した楓の姿にはハッピーエンドの一面も見て取れます。
楓と秋好の今後が読者の想像に委ねられたのも余韻があって良いですよね……。
青いがゆえに傷を得て、脆さを露呈し、”けど” 先があって進んでいく。
現実の厳しさのなかに、救いを垣間見せてくれる物語でした。